続 吟 剣 詩 舞 漢 詩 集


 

洞 庭 に 臨 む
孟 浩 然
八月湖水平かなり

虚を涵して太清に混す

気は蒸す雲夢沢

波は撼かす岳陽城

済らんと欲するに舟揖無し

端居して聖明に恥ず

座して観る垂釣の者

徒に魚を羨むの情有り
遠 い 笛
室生 犀星
虹がきらきら立った城の中で
ゆるい笛がつづいて
そして嬰児はぽっかりと目をさました

白いさびしい光があった
だが笛の音色はしなかった
どこに母親の顔があるのか
かたかげの障子ばかり白く見えた

よく見るとすぐ顔の近くに
紛う方もない母親が
その静かな瞳で眺めてゐた
それゆゑ嬰児は一時に悲しくなって
こゑを上げて泣き出した