続 吟 剣 詩 舞 漢 詩 集


 
建 礼 門 院
時は元暦二年三月の二十四日
卯の刻に両軍矢を合わせ
陣を合わす

鬨の声は海にひびこう
名にし負う壇の浦は
だぎりにたぎり
うずさかまいてしぶく汐なれば
平家の船ことごとく追い落とし
源氏の船は汐を追う

戦いすでに極まったり

見わたせば 春がすみたつ東山
比叡鞍馬の峯つづき
小倉の山のさみどりに
父君のいまだおわせし日
西八条の館にて

 わが宿の
   花見がてらに くる人は
      ちりなんのちぞ 悲しかるべき

ちりなんのちぞ恋しくて
いまはただひたすらに

ほどなく鎌倉殿より
建礼門院は東山の長楽寺にて
おんぐしおろさせたもうべしとの
達しあり

門院は重たき足どりに
さきのみかどの御衣胸にかき抱きまいらせ
一足踏んでは頼朝憎や 二足踏んでは義経憎や

このとき門院のおんおもては晴々と
東山長楽寺の緑に映えて
おん美しくかがやき おん足どりも軽やかに
御仏の前に急がせたもうこそ めでたけれ

南無至心 帰命礼 西方 阿弥陀仏
観音菩薩 大慈悲 己得菩薩