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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/02/12 (火) 偶 作

ぐう さく
    さい  こう

さい りゅう こう じゅ さい さい もんめぐ
じゅう ちゃくじょう とう かくむら
ろう にしててん われきょう
ぐん せい うん として おさ
ひと わすきく げつ はい ちゅうあじ
たけうつ ひつ あと
ぜん しん まさほつ しょう なるべし
あいここかん たん じん けんへだ つるを
細流高樹?柴門

住著城東負郭村

老後無為天共我

群生芸爾地収根

醺人麹蘖杯中味

写竹蘆麻筆下痕

知是前身応法性

愛?閑淡隔塵喧

嘉永五年 (1852) の作。六十六歳。

小川のせせらぎと高い木々にとり囲まれて粗末な門を構え、お城の東、近郊のこの村にずっと住まって参りました。
年をとってからというもの、特に何をするでもないながら、天が私を生かしてくれております。ありとあらゆる草木は地に根を下ろして、うっそうと茂っています。
人をよい心地に酔わせてくれる酒を杯に味わい、竹を描こうと筆を走らせたつもりが、出来上がったのは蘆か乱れた麻のようなものばかり。
きっと私の前世は法身であったのでしょう。こうしてここで何の欲もなく静かに暮らして、わずらわしい世間より遠ざかっているのが好きなのですもの。

○細流==小さな川。
○柴門==柴で作った門。粗末な家のこと。
○住著==ずっと溜まっている。著はその状態が持続している意をそえる助字。
○負郭==負は背負う。郭は城郭。近郊の豊かな土地をさす。
○無為==何事もしない。
○群生==生きとし生ける者の意であるが、ここでは地に生う草木をさしている。
○芸爾==多くさかんなさま。
○醺==酒に酔う。
○麹蘖==こうじ、転じて酒のこと。
○蘆麻==水辺に生えている蘆と麻。竹を描いたところが、葉は蘆のようで、竿は麻のような不出来な代物になったという意。
○前身応法性==前身は前世でのからだ。法性とは一切の存在や現象の本性、不変の真理を示す仏語であるが、ここではその真理を会得した身、法身というような意味で用いている。
○? (ココ) ==この所にの意。
○閑淡==心が静まり、やすらかで、物事に執着しないさま。もの静かで恬淡としている。
○塵喧==けがれて騒がしいところ。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ