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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/02/12 (火) 自 述 用紅蘭女史所寄詩韻

じゅつ
こう らん じょ するところいんもち
    さい  こう 

うを めよひつ けん みずかきょう すと
りてかん けい すい すと
うお おどとび ぶはみな
ばい こう ちく しょくもと そう
さけともまじ わるがごとひと えによろ しくたん なるべし
やま るにさら なるをあい
じん せい なかかん らく
かえ ってうたがてん じょうつきえい するを
休言筆研自衿持

老去寒閨下翠帷

魚躍鳶飛皆至理

梅香竹色旧相知

酒如交友偏宜淡

詩似見山更愛奇

人世箇中有閑楽

却疑天上月盈虧

弘化二年 (1845) の作。五十九歳。
十一月張 (梁川) 紅蘭より詩を贈られる。それに謝して次韻した詩一首を賦し、再び同韻の詩を一首賦す。これは後の方の作。

私が詩文に誇りを持っているなどと仰らないで下さい。この頃はすっかり年をとって、独りきりの部屋にとばりを下ろしたままでおりますのよ。
魚が跳ね、とびが飛ぶことく自然の成り行きに従うのがすべてこの世のことわりと悟りすましております。梅の香りや竹の色だけが昔からの変わることのない友達ですわ。
お酒も友と交わると同じで、ただもう淡白なのに限ります。詩の方は山を見る時のように、ますます目新しいものが面白いと思うようになりました。
こうしていればわずらわしいような人の世にも静かな楽しみがあるものなんですね。そう思うと却って天井に月の満ち欠けがあり、月日のたってゆくのが不思議なくらいです。

○筆研==筆と硯。転じて詩文を作ること。
○衿持==自負すること。
○寒閨==さびしいねや。
○翠帷==みどりのとばり。
○至理==もっともな道理。
○梅香竹色==竹梅は蘭菊とともに気品の高い植物として四君子に数えられ、また細の最も愛した画題であった。
○交友宜淡==人との付き合いは淡白な方がよい。
○奇==めずらしい。変わっていること。
○箇中==この中に。
○月盈虧==月が満ちることと欠けること。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ