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悠悠素顔事多違
一夢人生何是非
塵想羈因読書浅
交遊濶為出門稀
抱愁枕上残灯暗
侍病窓前缺月微
誰識閑鴎江畔睡
風波猶欲触忘機 |
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天保五年 (1834) の作。四十八歳。
平生から思い続けていた願い事もたいていは叶わず、実際とは随分かけ離れてしまった。すべて夢のように儚い人間の一生で、どうして何が良くて、何が悪いなどと決めることができるだろう。
俗念にとらわれるのは書を読み足りないからであろう。友達と疎遠になるのはめったに門から出ようとしないからである。
心配事のため、枕もとの灯火が燃え尽きんとして薄暗くなるまで寝もやらず、父の看病をしているうちに窓辺は白んできて、欠けた月がほのかに見えるばかりになった。
せっかく川のほとりで安らかに眠っているかもめどりのように欲念を払った私の心を、なおも波風が揺り起こそうとしているのを、誰も知る者はいないだろう。
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○悠悠==ものを思うさま。
○素顔==平素からの願望。
○事多違==現実が理想にもとる
○塵想==世俗的な欲に汚れた心。
○残灯==燃え尽きんとする灯火。眠れぬ夜の象徴。
○閑鴎==静かに水に浮んでいるかもめ。かもめは自己を喩えている。
○忘機==邪欲なたくらみごとを忘れること。
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