山
陽
先
生
を 挽
し 奉
る (一)
江
馬
細
香
|
|
相
約
す歓
期
年
を隔
てじと
暫
し離
るるに何
事
ぞ忽
ち凄
然
たらんとは
詩
を寄
するに會
て怪
しむ逢
うことの難
きの字
前
讖
今
知
る永
訣
の篇
なりしを
素
壁
香
を焼
きて遺
墨
を拝
し
生
蒭
酒
を置
きて重
泉
に?
ぐ
嗚
呼
海
内
の文
宗
欠
けたり
独
り吾
が儕
の血
涙
漣
たるのみならず |
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相約歓期不隔年
暫離何事忽凄然
寄詩會怪逢難字
前讖今知永訣篇
素壁焼香拝遺墨
生蒭置酒?重泉
嗚呼海内文宗欠
不独吾儕血涙漣 |
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天保三年 (1831) の作。四十六歳。同年九月二十三日、結核を患い病床にあった頼山陽が終に没する。享年五十三。
近いうちにまた会って楽しい時を過ごしましょうと約束したのに、しばらくのお別れのはずが、にわかにこのような傷ましいことになってしまうとは、どうしたことだろう。
前に詩を下さった時、 「逢い難い」 というお言葉があるのを不思議に思ったけれども、今にして思えば、それは永久の別れを予見したかたみの詩だったのだ。
床の間の壁に以前先生が下さった書をかけ、香をたいてぬかずく。亡き人への手向けとして酒をお供えし、先生のいらっしゃる黄泉の国に注ぐ。
ああ、天下の文豪が失われてしまった。ただ私にとどまらず、多くの者があふれんばかりの血の涙を流すことだろう。
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○挽==葬式の柩車を引く意から転じて、人の死を悼むこと。
○相約==約束をする。
○暫離==しばらくの間だけ離れていること。
○凄然==悲しみ傷むさま。
○逢難字==文政十三 (天保元) 年三月上京した細香は、水西荘に頼山陽を訪い、また彼らと嵐山に花を賞す。帰郷を控えた閏三月九日、細香の餞別の宴が催された。果たしてこの度の別れが二人の相見
(アイマミ) える最後となるのであるが、あたかもそのことを予感しているかの如く、山陽は次の詩を賦し贈った。
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雨 窓 に 細 香 と
別 れ を 話 す |
離堂の短燭且
らく歓を留む
帰路の新泥当
に乾くを待つべし
岸を隔つる峰
巒
雲纔
かに斂
まり
隣楼の糸肉夜将
に闌
ならんとす
今春閏
有り客猶を滞
まる
宿雨情
無
く花已
に残
す
此
より去りて濃州遠道に非るも
老来転
た覚ゆ数
しば逢うことの難きを |
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雨 窓 与 細 香 話
別 |
離堂短燭且留歓
帰路新泥当待乾
隔岸峰巒雲纔斂
隣楼糸肉夜将闌
今春有閏客猶滞
宿雨無情花已残
此去濃州非遠道
老来転覚数逢難 |
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○前讖==予言。前ぶれ。
○永訣==永遠の別れ。死別。
○素壁==白い壁。ここでは床の間の壁を指すのであろう。
○焼香==礼拝の時に香炉に香をたく。
○遺墨==故人の残した書画。
○生蒭==刈ったばかりのまぐさ。転じて死者への贈物。
○置酒==ふつうは酒宴を指すが、ここでは酒をお供えしておくの意で用いているのであろう。
○? (ソソグ)==酒を地にそそぐまつりの儀式。
○重泉==九泉、死者のゆくところ。
○海内==天下。
○文宗==文章の大家。
○吾儕==われわれ。わがともがら。
○血涙==血の涙。強い悲痛のあまりに流す涙。
○漣==涙を流すさま。 |
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