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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/02/02 (土) 読 源 語 (四)

げん む (四)
    さい  こう 

しゅん いずみごと きてとど まらず

せい ていざん しておん じゅうりょう せんと

いち れん じょう かん けん こと なり

らく よう しょう しょう ひとあき
                    若 菜 上
春意如泉沸不留

擬?青帝領温柔

一連枝上寒暄異

落葉蕭蕭独占秋
      若 菜 上
文政十二年 (1829) の作。四十三歳。 『源氏物語』 の諸帖をとりあげ、詩に綴った。源語は源氏物語のこと。

柏木の慕情は泉の沸くようにつのって留めるすべもなく、春の神を出し抜き、暖かく柔らかな愛の国を我がものにしてしまった。
一つづきの枝というのに寒いところと暖かいところに隔たり、ただはらはら散った落ち葉ばかりが冷たい秋の中にいる。

○春意==恋心。
○? (テイ) ==〜に抜きん出て、先んじての意。
○青帝==東方を治める天帝で、春をつかさどる。
○領温柔== 「趙飛燕外伝」 に、漢の成帝が趙飛燕の妹合徳と睦み、その暖かでなよなかなるを愛して 「温柔の郷」 と呼び 「吾是の郷に老いん、武皇帝に効 (ナラ) って白雲の郷を求むる能わず」 と語った。
○一連枝上・落葉==柏木が恋慕する女三の宮と、柏木に降嫁していた女二の宮は共に朱雀院の娘 (異母姉妹) 。女三の宮を恋う柏木の目には女二の宮が、見劣りし、 「もろかづら 落葉を何に 拾ひけん 名はむつましき かざしなれども」 と歌った。女二の宮は落葉の宮と呼ばれる。
○寒暄==寒いことと暖かいこと。
○蕭蕭==草木の揺落するさま。

『源氏物語』 「若菜下」 の巻。柏木は恋しい女三の宮の形代として女二の宮を得るが、つのる思いに耐えかねてついに女三の宮の寝所に忍んで行く。その一度の逢瀬のゆえに彼は女三の宮に一層恋焦がれ、女二の宮への心は冷めて行った。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ