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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/02/01 (金) 読 源 語 (三)

げん む (三)
    さい  こう 

みずかぼう てい しんでよろ しくえん けん すべし

けい しん なに ごと せんあら わす

いつ ちょう えい きゅう じょうちか

らい しゅう れん
              若 菜 上
自惜娉?宣遠嫌

軽心何事露眉尖

一重花影毬場近

無頼狸奴揚繍簾
      若 菜 上
文政十二年 (1829) の作。四十三歳。 『源氏物語』 の諸帖をとりあげ、詩に綴った。源語は源氏物語のこと。

御自身の美貌を惜しんで、詮索されるようなことの起こらぬよう遠ざかっておくべきだったのに、美しい目もとを露にしてしまったとは何と軽はずみなこと。
けまりの場に近々と、花のように美しい女三の宮の透き影が写り、その時いたずら者の猫が縫いとり模様の美しい御簾 (ミス) を引き上げてしまった。

○娉? (ホウテイ) ==美しさ。
○遠嫌==疑いのかかるようなことやまぎらわしいことを避ける。
○軽心==軽はずみ。軽率なこと。
○眉尖==眉の先。
○一重花影==御簾に写った花の如き、女三の宮の透き影のことをいう。
○毬場==蹴鞠の場。三月 (ヤヨイ) の一日 (イチジツ) 、源氏の六条院寝殿の東おもてで公達が蹴鞠を始めていたことをいう。
○無頼==ならず者。
○狸奴==猫の別称。
○繍簾==縫い取りのある美しいすだれ。

『源氏物語』 「若菜上」 の巻。朱雀院は最愛の娘女三の宮を源氏に降嫁させた。かねてより女三の宮に心を寄せていた柏木は源氏邸での蹴鞠の場で、猫に引き上げられた御簾の奥に美しい彼女の立ち姿を垣間見た。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ