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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/01/31 (木) 読 源 語 (一)

げん む (一)
    さい  こう 

しん こうせん けんあら わす

いつ せんそう りょう せいえん

こう かおむな しきも えず

また じゅう まん きてことさ らにてん 綿めん たり

                  夕 顔
瓠花深巷見嬋娟

一扇相思両世縁

香燼芳空根不断

又抽柔蔓故纏綿

        夕 顔
文政十二年 (1829) の作。四十三歳。 『源氏物語』 の諸帖をとりあげ、詩に綴った。源語は源氏物語のこと。

五条の町のかたすみに、ひっそり咲き出たあでやかな夕顔の花を見出した。思いを託した一本の扇が、源氏と夕顔の夫婦の契りを結ぶ縁となる。
その芳しいかおりが消え果てしまっても (夕顔が亡くなってしまっても) 、根だけは断えず残り、新たに若いつる (玉かずら) が生い育って、ことに断ちがたい絆となるのであった。

○瓠花==瓠はゆうがお。
○深巷==町の奥まった通り。夕顔の住んでいた五条のあたりを指す。
○嬋娟==あでやかな美しさ。
○一扇相思==相思は思い慕うこと。板塀の傍に咲いていた夕顔の花に目をとめた光源氏に、女は女童をつかわし、歌を記した白い扇に花をのせて源氏にたてまつらせた
○両世縁==来世までも結ばれる縁、即ち夫婦の縁。
○香燼==夕顔が物の怪におびえ頓死したことを指す。 「香消」 「断香」 は女性がやつれ衰えたり、亡くなってしまう比喩として用いられる。
○抽==草木が芽を出すこと。
○柔蔓==若くやわらかいつる。蔓は草のつる、或いはかずらなど、つるのある草。夕顔の遺児玉鬘を指す。
○纏綿==思いがまとわりついて、離れないさま。源氏は玉鬘を見つけ出し、自分の子のように引き取るが、美しい玉鬘に恋心をつのらせた。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ