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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/01/27 (日) 秋 海 棠

しゅう かい どう
    さい  こう 

てい かい あめ せい りょう

れい えん けい けい かい どう ひら

いつまか せんしゅう しょう はな ねむ るを

ひとしょく りてこう しょう らす
庭階経雨気凄涼

冷艶茎茎発海棠

一任秋宵花睡去

無人秉燭照紅粧
文政五年 (1822) 秋の作。三十六歳。
秋海棠は八月春ともいい、秋に赤くなまめかしい花を咲かせる。また、女性が懐う人の来ないために泣き、その涙の落ちたところからこの花が生じたという伝説があり、断腸花とも呼ばれる。

雨のあと、庭石の辺りは淋しく静まりかえっている。茎という茎に花を開いた海棠は、澄みとおったように美しい。
長い秋の夜に花が睡ろうとするのも、そっとしておこう。灯をともしてまで、紅く粧った花を照らし出そうとは誰もしますまい。

○庭階==庭に下りるきざはし。ここでは縁先の石段のこと。
○凄涼==ぞっとするほど寂しいさま。
○冷艶==清楚で気高い美しさ。
○一任==すべてそのままに任せておこうの意。
○花睡去・照紅粧==蘇軾の 「海棠」 に 「只だ恐る、夜深くして花睡り去るを、故に高燭を焼いて紅妝を照らす」 とあるのによる。去は ・・・しようとするの意。
○秉燭==夜も灯火を手にとって。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ