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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/01/16 (火) 閨 裏 盆 楳 盛 開 偶 有 此 作

けい ぼん ばい さか んにひらたま たまさく
    さい  こう 

はな きょねん しておお きこといく えだ

いん ぎんあい してれん おろ

たとせい そう もてかん うるとも

ふう そう をしてぎょく せま らしめじ
花比去年多幾枝

慇懃愛護下簾帷

縦能清操堪寒夜

不遺風霜迫玉肌
文化十四年 (1817) 春、部屋の梅が開いたのを見て詠む。三十一歳。

たくさん咲いた梅の花、去年よりもどれ位多いかしら。窓のとばりをおろして、大切に大切に守りましょう。
いくら梅が操がかたく、夜の寒さに耐え得るとしても、その玉のように美しい肌えに風と霜とを近寄せるわけには参りません。

○慇懃==ねんごろに。心をこめて。
○簾帷==すだれや垂れ幕。カーテン。
○清操==清廉潔白な節操。
○堪寒夜==冷たい夜の意とともに、寒夜は楽府 「寒夜怨」 の世界のように、独り寝の夜のうつうつたる思いに沈む女性を暗示する。
○迫玉肌==玉肌は玉のように美しい肌。白居易の 「小歳の日、談氏の外孫女孩 (ジョガイ) 、月に満つるを喜ぶ」 に 「蘭湯玉肌を洗う」 というごとく女子の美しい肌をも表現し、また蘇軾の 「紅梅 三首」 の第一首 「酒暈 (シュウン) 端無くも玉肌に上る」 のように梅にも用いる。

しのびよらんとする風や霜から寒夜 (独夜) 守ろうとする梅は無論、彼女自身の姿を重ね合わせたもので、山陽は詩稿に 「珍重、珍重、吾其の晩節の益ます烈なるを祈るなり」 と冷やかしている。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ