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『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ

2008/01/15 (月) 甲戌仲秋遊妙興寺、帰路失涼傘、戯有此作

こう じゅつ ちゅう しゅう みょう こう あそ ぶ。 りょう さんうし い、たわむ れにさく
    さい  こう 

すい すい たるえん いん はな からず
とう へい たることけい りす
かさこう けいさえぎ りてつねあい ともな
じゅう ていたく してところしたが
しん せい しゅう ざん きのこたず ぬる
ふう しゅん はなとき
いつ ちょう なん てて
けいきみおも うこと調ちょう ごと
翠翠円陰不可離

当時聘得自京師

蓋遮高髻常相伴

柄託柔?随所之

新霽秋山尋蕈日

微風春寺酔花時

一朝何棄吾儂去

畏景懐君如調飢
文化十一年 (甲戌、1814) 八月の作。 二十八歳 。

深々と青く、まるい陰を手放すことが出来なかったのに、あの時、わざわざ京の都から取り寄せたのだもの。
いつも私に寄り添って、高く結い上げた私のまげを日ざしから蔽いかくしてくれたかさ。私の柔らかな手にゆだねて、行く所行く所についてきてくれた柄。
晴れあがったばかりのすがすがしい秋山に、きのこ狩りに行った日も、春風のそよ吹くお寺で、咲き乱れる桜の花に酔いしいれた時も一緒だったのに。
ある日突然、私を捨てて去ってしまったのはどうしてかしら。
強い日差しに照りつけられては、まるでひもじくてたまらない朝の時のように、あなたを思い焦がれて仕方がないわ。

○翠翠==翠は青緑色。翠陰は青葉などの落とす、みどりのかげ。
○聘==召す。まねく。賢者などを招き寄せる意に用いる語を擬人的に用いている。
○高髻==高く結ったまげ。
○柔? (ジュウテイ) ==やわらかいっぱいな (柔の芽) で、女性の白い手にたとえる。
○尋蕈==きのこ狩り。
○春寺酔花==春の寺で花を賞す。
○一朝==一朝はある朝、または一たび。
○畏景==夏の日ざし。景は日。
○調飢==朝食の前、空腹でひもじいこと。

『江戸漢詩選 (三) 女 流』 発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:福島 理子 ヨ リ