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日 本 漢 詩
『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ

2007/11/27 (火) 逸 題

いつ)  だい 
まえばら)  いつせい (ばいそう)

かんてついつしゅんわた

らいふうじんだつきゃくせんとほつ

いちじょうざんすいひじげてねむ

しゅうこうゆめみずじんゆめ
汗馬鐡衣過一春

歸來欲脱却風塵

一場残醉曲肱睡

不夢周公夢美人
語 釈

○汗馬== 「汗血馬」 の略。 「汗血馬」 は西域で産する血のような汗を出す駿馬で、今のアラビヤ馬。
○鐡衣==甲冑をいう。
○過一春==わが青春の日を送った。一春は、春いっぱい。春と同じ。以って青春の日に例えた。
○歸來==故郷に帰って来た。
○脱却==ぬけ出る。
○風塵==世間の俗事。俗世界。
○一場==一度、一回。ひととき。
○残醉==醉餘。
○曲肱睡==ひじをまげて枕とし、横になり、ねむること。
○不夢周公==周公は周の武王の弟周公旦。孔子が理想の人とした聖人。
○美人==美しい女。又、君主または賢人をいう。

題 意
いつかその題は失われて伝わらない。一本に 「残酔夢」 に作るものがある。詩意を以って按ずれば、明治三年 (1870) 九月、挂月の後であることは間違いなかろう。明治四年春ごろの作ではあるまいか。
通 釈
汗血馬 (駿馬) にうちまたがり、鉄衣 (甲冑) を着け、戦場を駆逐して、わが青春を倥偬の間に送ったが、今は懐かしの故郷に帰って来た。 これより後は、俗界をよそに悠悠自適の余生を送りたいものと思う。
そこで先ず一杯を傾け、肱を曲げて枕とし眠れば、もとより孔子ならぬ身の、周公を夢見ず、却って美人を夢見たことである。
『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ