述
懐
森
蔚
(靜
觀
廬
) |
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官
途
蹉
跌
して此
に身を蔵
す
世
と相
忘
れ秦
を避
けんと想
う
青
艸
池
を遶
つて蛙
雨
を喚
び
黄
梁
圃
を壓
して雀
人
に親
しむ
懶
は中
散
の如
く長
えに懶
に甘
んじ
貧
は黔
婁
に似
て貧
を厭
わず
禍
福
應
に知
るべし塞
翁
が馬
従
來
何
をか笑
い亦
何
にか顰
せん |
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官途蹉跌此蔵身
與世相忘想避秦
青艸遶池蛙喚雨
黄梁壓圃雀親人
懶如中散長甘懶
貧似黔婁不厭貧
禍福應知塞翁馬
従來何笑亦何顰 |
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語 釈 |
○官途==士官の途。官吏の地位職務。
○蹉跌==つまずく。
○此==この処。
○蔵身==身を隠して世を忍ぶこと。
○與世相忘==自分が世と没交渉で、互いに忘れたように暮らすこと。
陶淵明の 「帰去来辞」 の、「請ふ交を息めて以て游を絶たん。世と我と而ち相遺れん。復駕して言に焉をか求めん」
とあるのに基く。
○想避秦==秦の時の乱を避けた桃源郷の人々を想像すること。
陶淵明の 「桃花源記」 に桃源の人が、 「自ら云ふ、先世秦時の乱を避け、妻子・邑人を率いて此の絶境に来り、復た出でず。遂に外人と間隔す」
といっているのに基く。
○青艸==美しい青々とした草。
○遶池==池の岸をめぐって、はえている。
○蛙喚雨==蛙が雨を望んで鳴く。蛙は梅雨のころ繁殖期で相手を求めて鳴くのであるが、詩人は雨を喜んで鳴くとみた。
○黄梁==おおあわ。粟の一種で、穂が大きく、実をつけりこと疎なるもの。
○壓圃==畠に穂を重くたれているものをいう。
○黔婁==戦国時代、斉の威王の時の人。
○禍福==わざわいと、しあわせ。
○塞翁馬==淮南子、人間訓に見える 「禍福の定めないこと」 をいう故事。
「夫れ禍福の転じて相生ずるは、其の変見難きなり。塞上に近きの人に術 (占)
を善くする者有り。馬故無くして亡げて胡に入る。其の父曰く、 『此れ何ぞ福と為らざらんや』
と。居ること数月、其の馬胡の駿馬を将いて帰る。人皆之を賀す。其の父曰く 『此れ何ぞ渦と為る能わざらんや』
と。家良馬に富む。 其の子騎を好み、堕ちて其の髀 (股骨)
を折る。人皆之を弔す。其の父曰く、『此れ何ぞ福と為らざらんや』 と。居ること一年、胡人大いに塞に入る。丁壮の者弦を引いて戦い、塞に近きの人、死する者十に九なり。此れ独り跛の故を以って父子相保てり。故に福の禍と為り、禍の福となるは、化極む可からず、深測る可からざるなり」
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○従來==もとから。
○顰==憂えて眉をしかめる。 |
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題 意 |
この詩は、職を罷められ、謫居中、己の心境をうたったもの。 |
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通 釈 |
士官の途にもつまずいて、この地に身をひそめることになった。世の中とは一切没交渉となって、わずらわしいことは何もないし、あたかも秦の時の乱を避けて慝れ住んだ人々の桃源郷の生活もかくやと想像される。
時は初夏、青々とした美しい草が池をめぐって生え、蛙は雨を呼んでしきりに鳴いている。 黄梁は畠にたわわに実り、餌を求める雀も人に馴れて一向に恐れる様子もない。
わが姓の瀬惰は士官を嫌った?家と同じで、一生このままでよいと甘んじている。もとより貧乏は黔婁と同じであるが、慣れてしまって今さら苦にもならない。人間の禍福はあざなえる縄の如く、禍が福に転じ、福が禍にかわること、塞翁の馬の話の通りである。人世の得失など、今さら何を見て顔をほころばせ、何に対して眉をしかめることがあろう。
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