吟剣詩舞漢詩集  西郷隆盛漢詩集  吉田松陰漢詩集
日 本 漢 詩
『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ

2007/10/03 (水) 劍 舞 歌

けん うた
さか たけ さだ (とう かい )

につ しゅつくにめい ほう
ひゃく れんせい てつ たん ぞう するところ
こう ぼう でん せん なつ なお さむ
かぜ しょう しょう としてはつ かんむり
につ しゅつ だん たん
はく じんほう がんおか
ほう がんおかけん じんおとしい
じゅう おう はく げき してさん がく ふる
えい りてせいじょく
もち いずしょう だい やく そく くるを
日出國兮有名寶
百錬精鐡所鍛造
光鋩電閃夏猶寒
風蕭蕭兮髪衝冠
請看日出男兒膽
蹈白刃兮犯砲丸
犯砲丸兮陥堅陣
縦横搏撃山嶽震
有死之榮無生辱
不須將臺受約束
語 釈

○日出國==日本の国をいう。聖徳太子が随に贈る国書に、 「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す」 とあって、以来日本の異名となった。
○名寶==有名な宝物。日本刀は世界に冠たる日本の宝であるからいう。
○百錬==何百回も折り曲げ、たたいて、鍛えた。
○鍛造==きたえて造りあげる。
○光鋩==一に 「光芒」 に作る。同じ。光のきらめくのをいう。
○電閃==いなずまのようにひらめくこと。
○風蕭蕭==史記の荊軻伝に、 「荊軻が燕の太子丹のために秦王政 (後の始皇帝) を刺すべく途に上がった時に、太子丹をはじめ諸人が易水で別宴を開いた。高漸離が筑を撃てば、荊軻は、 『風は蕭蕭として易水寒し、壮士一たび去って復た還らず』 と歌った。送別の人々は皆慷慨目を瞋らし、髪が逆立ち冠を指した」 とある。
○髪衝冠==唐の 駱賓王の 「易水送別」 の詩に、 「此地別燕丹 壮士髪衝冠」 とある。
○蹈白刃==白刃の地を踏むこと。中庸に、 「白刃は踏むべきなり。中庸は能くす可からざるなり」 とある。
○搏撃==うちたたく。斬りまくるのにいった。
○將臺==将軍が部下を指揮する台。
○約束==つかねる。ひきしめる。指揮命令をうけることにいった。

題 意
日本刀と武士の精神を詠ったものである。
通 釈
「日出づる国」 の日本に名宝がある。幾百回も鍛錬した精鉄で作られた日本刀である。鞘をはらえば光はきらきらと電 (イナズマ) のようにひらめき、夏でも肌寒く、かの荊軻が易水の別れにあたって、 「風は蕭々として易水寒し」 と歌ったら、見送る人の髪は冠を衝きあげたというが、まさにそれにも似た思いがある。
これを帯びる 「日出づる国」 の男児の胆力がどんなものか、見てもらいたい。
白刃の地を踏み、砲丸の下をくぐり、砲丸の中をくぐって敵の堅陣を陥れ、縦横無尽に斬りまくる、その勢いは山岳をも震わすばかり。君国の為には死して栄名を望むとも、生きて恥辱をさらすことはない。将軍の命令督制を受けるまでもないのである。
余 説

日本刀の快利と武士の精神を遺憾なく描き出している。東海は豪快悲壮な詩を作る。

『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ