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日 本 漢 詩
『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ

2007/08/13 (月) 題 菊 地 容 齋 圖

きく よう さいだい
ふじ たけき (とう )

こう りゅう うん

ちゅうものあら

如何いか んふう じんうち

いたず らにえい ゆう をしてくつ せしむる
蛟龍得雲雨

非復池中物

如何風塵裡

徒使英雄屈
語 釈

○蛟龍==蛟はみずち。足のある龍。龍は想像上の動物であるが、よく雲を起こして雨を呼ぶという。ここは蛟と龍と二つに解することも出来るが、蛟龍を一つに見てもよい。鱗のあるのが蛟龍。翼のあるのが応龍。
○風塵==俗界、俗世間。また俗吏の務をいう。

通 釈
蛟龍も雲雨を得れば天に上り、もはや池中一個の生物ではなく、鬼神の如き変化をあらわす。時を得れば英雄とても同じこと。どうしてつまらない俗塵の中に英雄を抑屈せしめるのであろうか。
題 意

復古大和絵の巨匠菊地容齋 (1788〜1878) の画いた龍の絵にかきつけ、己の意を得ないことを嘆じたものである。容齋は武保、歴史画家として知られ、勤王の誠心を画業の上にあらわした。明治十一年、九十一歳で没した。

余 説

菊地容齋は歴史画に新風を開いた人、恐らく東湖と心契があったろう。東湖はその図を見て、天下の風雲の去来する時、まだ時運に乗ずるを得ない己の気持ちを寄せてこの詩を作ったものと思われる。

『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ