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日 本 漢 詩
『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ

2007/08/09 (木) 秋 日 臥 病 有 感

しゅう じつ やまい してかん
まつ ざき ふく (きょう どう )

えん いづ れの せい せん

へい ねん しん たが

うん さん ぜん ゆめ いたがた

しゅう てん すう がん むな しく
故園何日省慈?

多病多年心事違

雲路三千夢難至

秋天無數雁空飛
語 釈

○秋日==秋の日。秋は物恋しく人恋しい時節。
○臥病==病気で床にふせっていること。
○有感==心に感ずる所があった。故郷の母を思い出したのをいう。
○故園==故郷と同じ。
○省慈?==慈? (ジイ) は慈母と同じ。母をいう。省は安否を問うこと。
○心事違==心と事とがくい違う。何事も思うようにまかせぬこと。
○雲路==天路と同じ。鳥などの翔りゆく空中の路。雲を隔てた遥かに遠い路。
○三千==三千里の略。
○秋天==秋の空。

通 釈
(平声微顔) 「いつ故郷に母上をお見舞いすることが出来るだろうか」 と、永年そう思いながら、とかく病気勝ちで、心と事とくい違い、いまふぁに実現できない。
それにしても肥後までは雲路はるばる三千里、夢にさえ容易に行ける所ではない。今しも見はるかす南の空へ無数の雁が飛んで行く。それが何とも羨ましくて仕方がない。
題 意

秋の日、病床にあって、故郷の老母のことを思って作った詩である。

余 説

慊堂が十五歳で故郷を出奔し、平沢の事件で父母に愁いを残し、そのまま孝養を尽くすことも出来ず、後に大名をなすに至っても、ついに再び故郷に帰れなかったのであるから、詩中にいう所は、率直偽らない気持ちであろう。
詩の巧拙よりも、まず作者の純孝の気持ちが読む人の胸を打つ。慊堂は経学文章は無双「の大家であるが、詩はおおむね率意の作が多い。しかし 樸茂の気が筆墨の間ににじみ出ている所はさすがである。

『日本漢詩 新釈漢文大系』 著・猪口 篤志 発行所・明治書院 ヨ リ