〜 〜 『 源 氏 物 語 』 〜 〜
 

2008/04/24 (木) 夕 顔 の 帖 (三)

源氏が、空蝉の手厳しい拒否にあって、雨夜の品定めに論じられた中流の女の魅力を体験しつつあった同じ頃のこと。
源氏には、ひそかに通う六条あたりの高貴の女性があったが、乳母の病気見舞いに、五条の家を訪れる途中、隣家の夕顔の花に見とれていると、思いがけずその家の女から、夕顔の花に寄せた歌を贈られた。雨夜の品定めのことが頭を去らぬ源氏は、物語にある陋屋 (ロウオク) の美女を想像して、女につよくひかれる。巻名はこの夕顔の歌のやりとりから取られている。
乳母子惟光 (コレミツ) の調査で、雨夜の品定めに頭の中将が話した常夏の女ではないかと疑ったが、それがまた興味をそそり、やがて惟光の手引きで、女のもとに通い始める。
源氏は覆面までして身分を隠すので、女は、人間ではないものが通うのかと、いぶかしく不安に思うが、素直でやさしい心根に、賤しい住居に似ぬ大らかさ、男を信じ切った様子は、源氏の今までに知らぬものだった。
源氏はいよいよ女に執心し、八月十五夜、女の家に一夜を明かすが、そのまま彼女を廃院に伴う。夜半、女は魔物に襲われて急死し、源氏は惟光の手助けで、やっと彼女を東山に葬った。
そのあと、彼も思い病気にかかったが、ようやく九月に癒え、女の侍女を召し出して、その素性を聞き、やはり頭の中将の常夏の女で、忘れ形見の女の子のあったことも知る。
しかし一切は秘密にされ、まもなく、空蝉も夫と供に任地に下る。夕顔は死に、空蝉は去り、雨夜の品定めに始まった中の品の恋の遍歴は終わった。巻末の数行は、帚木冒頭の文章と首尾相応じ、この巻が帚木、空蝉の巻と一まとまりのものであることを示している。
新調日本古典集成 『源氏物語 (一) 』 校注者・石田 穣二 清水 好子 発行所・ 新潮社 ヨ リ