〜 〜 『 源 氏 物 語 』 〜 〜
 

2008/04/16 (水) 空 蝉 の 帖

この巻は、帚木巻末の場面をそのままに、小君をかたわらに臥せた失意の源氏の姿をえがくところからはじまる。
あきらめられぬ思いの源氏は、小君を語らって今度は人目を忍んで中川の邸を訪れる。
夏の夕闇にまぎれて、はからずも源氏は、空蝉と紀伊の守の妹軒端 (ノキバ) の荻 (オギ) が碁を打つ姿を垣間見る。
人々が寝静まってから小君の手引きで源氏は寝室に忍ぶが、それと察した空蝉は身をもってのがれ、源氏は心ならずも軒端の萩と契るはめになった。
源氏は女の脱ぎ捨てていった小袿 (コウチキ) を手にして二条の院に帰り、むなしくその人香 (ヒトガ) をなつかしむ。
巻名は、源氏と女主人公の歌によっているが、空蝉とは、蝉を意味する歌語である。空しい殻を残して飛び立ってゆく生態からの連想であろう。この言葉は、源氏の歌では、小袿を残してのがれ去った女主人公を意味している。巻末に置かれた女主人公の歌には、木隠 (コガクレ) に露に濡れる蝉に託して、源氏の愛に答え得ない女のせつない心情が情感をこめてうったえられている。
作者自身、この人を帚木巻末の歌によって帚木と呼んだ例もあるが、夕顔の巻以下に空蝉と呼ぶ呼び名が固定しており、後の読者も、この人をこの名でよぶことになった。
新調日本古典集成 『源氏物語 (一) 』 校注者・石田 穣二 清水 好子 発行所・ 新潮社
空蝉の弟の小君を、文使いとするため源氏は可愛がる。一度は心ならずも源氏に犯されたが、空蝉はその後、きびしい態度で寄せ付けない。
思い切れない源氏は夏の夕闇にまぎれて、紀伊の守邸に忍びこむ。小君の手引きで空蝉の寝所に導かれたが、それを察した空蝉は、薄い肌着だけつけ、身ひとつで危うく逃れ去る。
一緒に寝ていた紀伊の守の妹軒端 (ノキバ) の荻 (オギ) を空蝉だと思い、まちがって契った源氏は、空蝉の脱ぎ残した蝉の抜け殻のような薄い衣の小袿を持ち帰り、残り香をなつかしむ。
拒みながら、空蝉は心の中では源氏が忘れられなく、切なく、単身で赴任先にいる老いたる夫の伊予の介への、罪の呵責に苦しむ。
『源氏物語 巻一』 著者 ・瀬戸内 寂聴 発行所・ 講談社 ヨ リ