〜 〜 『 源 氏 物 語 』 〜 〜
 
2008/02/29 (金) 帚 木 の 帖

「帚木」 「空蝉」 「夕顔」 とつづく三巻は、すべて源氏十七歳の年の出来事である。この時、源氏は近衛の中将になっている。
この数年間で、少年はすっかり成長して、一人前の男になっている。
「源氏物語」 を読む時、まず頭に入れておかなければならないのは、当時の年齢感覚が現代とは全く違うということである。十二歳の少年と十六歳の少女が結婚するのが当然とされた時代では、十七歳は今で言う青臭いティーンエイジャーではなく、宮廷の護衛兵として、中将もつとまる成人扱いなのである。
「源氏物語」 は、後宮に仕えている女房が語るという設定で書かれている。
この巻の冒頭の地の文は語り手の女房の言葉として書かれている。
源氏がすでに、恋愛の道にかけて評判のプレイボーイになっていることを示している。語り手は、そんな秘密にしている内緒ごとを書きあばくのは、気が引けるといいながら、これから書くものが、源氏の 「すきごと」 つまり情事の話に尽きることを白状する。巧妙な書き出しで、読者はこれだけで読みたい好奇心をそそられる。
この巻に有名な 「雨夜の品定め」 と称される話が据えられている。
長い五月雨の一夜、宮中で物忌みのため籠っている源氏の宿直所 (トノイドコロ) に、頭の中将、左馬 (サマ) の頭 (カミ) 藤式部の丞 (ジョウ) の三人が集まるり、女の品定めが始まる。
それぞれ我こそはと自任している女蕩 (オンナタ) らしが、夜を徹してとっておきの経験談や、打ち明け話、様々な女の滑稽話から、はては恋愛論、女性論へと話題は展開していく。
作者が女であることを忘れさせるほど、この座談会は面白い。この中に頭の中将の思い出話として、子までなしたのに、ふと行方をくらましてしなったおとなしい女の話が出る。これが後の夕顔だという伏線になる。
左馬の頭の話に、女を上、中、下の階級分けにして中流の女にこそ、掘出しものがあるというのも、次の巻の空蝉の伏線になっている。
妻は子供っぽい無邪気な女を、好みの女に育てていくのがいいという説も、若紫の伏線といえる。
また、この話にほとんど加わらない源氏の心中には、すでに藤壺との不倫の恋が棲みついていることも匂わせている。
その翌晩、源氏は方違えに中川の紀伊の守の邸へ行き、紀伊の守の父の若い後妻、空蝉に逢い、無理に犯す。
源氏の初めて知った中流のこの女は、思いがけない自尊心を見せ、手きびしい抵抗をみせる。

新調日本古典集成 『源氏物語 (一) 』 校注者・石田 穣二 清水 好子 発行所・ 新潮社
『源氏物語 巻一』 著者 ・瀬戸内 寂聴 発行所・ 講談社 ヨ リ