いくつかの罪人の列が、ひとしく首をうなだれて、
「お許しください、どうぞお慈悲を」 と、しきりに叫んでいる。それを叱りつける牢役人の声は、ののしり怒ること凄まじく、さながら雷鳴のようだ。 だが、私だけは胸にやましい事はいささかもなく、水の如く潔白である。だから、奉行所内の些細な事で心を悩ませたりはしないのだ。
|
首頻乞哀==首頻は、奉行所内を囚人がうなだれてゆくこと。乞哀は、乞憐に同じで、押韻の関係で哀を用いたもの。
方寸==こころ。胸中一寸四方にあるからという。 清若水==左内は自分の行動に些かのやましい思いはなく、翌安政六年
(1859) 七月の評定所での取調べにも 「私は主人の為を致すべき筈なれば、主人は公辺の御為致すべきは勿論に御座候」
と答えているように、「私は国家の為を思う藩主の指示に家臣として忠実に従ったまでだと泰然としていた。幕府が左内を何事かの容疑者と見なした事さえも心外であった。
教==使と同じく使役の辞。 些子==わずか。
累霊台==累は、思いわずらわせりこと。霊台は、たなしいのありか、すなわちこころ。 |
|
幾群
か首(/rp> を俛(/rp> せて頻(/rp>
りに哀(/rp> れみを乞(/rp> う 獄(/rp>
吏(/rp> の叱(/rp>
声(/rp> 嗔(/rp>
りて雷(/rp> に似(/rp> たり 方寸(/rp>
唯(/rp> だ吾(/rp>
のみは清(/rp> きこと水(/rp>
の若(/rp> く
些(/rp> 子(/rp> をして霊(/rp>
台(/rp> を累(/rp>
わ教(/rp> めず |
|
幾群俛首頻乞哀
獄吏叱声嗔似雷 方寸唯吾清若水 不教些子累霊台 | |