橋 本 左 内 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)



きょういた じょう
ひつ しろ そう なるかな

任佗さもあら ばあれ せつ はい つとも

かえ ってあわ れむかい えき はる しょう するに

ばい きょう とう うまむか えてひら くを
到 京 途 上
匹馬辞城気壮哉

任佗飛雪撲離盃

翻憐海駅春堪賞

梅李杏桃迎馬開
 
安政五年 (1858) の作。二十五歳。
将軍後嗣をめぐって朝廷工作を行うために上京する。

馬にまたがって江戸の町を発つ時には、心は勇壮な思いにみちていた。たとえ舞い散る雪が酌み交わす別れの盃に吹きつけようとも、ただ勇壮なだけであった。
それが、海辺の宿場まで来て春景色の見事さには胸をうたれた。梅と李 (スモモ)(アンズ) と桃が、いずれも花開いて我が馬を迎えてくれるのだから。

匹馬==一匹の馬   辞城==城は、町。江戸城下を出発すること。
壮哉==哉は、詠嘆の辞。   任佗==たとえ〜〜であっても。
翻憐==翻は、反に同じ。かえって、それどころか。憐は、強く心を動かされること。
梅李杏桃==いずれも早春を代表する花。