橋 本 左 内 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)


かん しゅ (二)
さん こう しょう

そぞろおぼけん みん もよお すを

ごう ごう たり せいがん

たちまきょう おどろ かせ たる
寒 夜 二 首 (二)
三更宵課了

坐覚倦眠催

嗷嗷孤征雁

忽驚郷思来


作年未詳。嘉永五年 (1852) 頃の作かと思われる。十九歳。
この年の閏二月、左内は父の病気を知らされて大坂の適塾をひきはらい、故郷福井へ帰った。詩中に 「郷愁」 「宵課」 の語があることから、帰国以前、なお大坂の適塾にあっての詩であろう。

真夜中までかかって宿題をかたづけたら、何となく疲れて眠くなった。
空をひとり翔けゆくのか雁の声がきこえる。にわかに望郷の思いを呼びさまされてしまった。

三更==夜を五つの時間帯に分けた三番目。真夜中。
宵課==今晩しなければならない勉強。   倦眠==疲労とねむけ。
孤征==ただひとり遠くをさして行くこと。
嗷嗷==雁の悲しげに鳴くさま。   忽驚郷思来==忽驚は、突然はっと気づかせる。