橋 本 左 内 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)



てき じゅくしょ ゆうさくら しゃあそ
りょう がんこう うん へき りゅうよう

かい しげところ きゃく しげ

こん にち ちょう ざるがため

やくみょう ちょう しょう しゅううか べんと
与 適 塾 諸 友 遊 桜 社
両岸香雲擁碧流

開花稠処客還稠

為今日不釣詩得

復約明朝泛小舟
 
嘉永三、四年 (1850、1851) 頃の作。
十七、八歳。
適塾の友人達と花見に出かけての詩。
桜社は、今の大阪市都島区の桜宮で、淀川の支流になる大川に沿って八重桜の名所として知られる。
船場過書町 (現在の東区北浜三丁目) の適塾からは直線距離にして2キロメートルほどの地になる。

両岸のおびただしい桜が碧 (アオ) い川の流れを包み込んでいる。花のひときわ盛んに咲いているところは、花見の客もむらがっている。
今日は詩を作るには至らなかったので、明朝また小舟を雇って花の下に浮ぶとしよう。

両岸==大川の両岸。今の造幣局から桜宮大橋までの一帯。
香雲==花があまねく咲きみちるさまを雲にたとえていう語。
稠==密集して多くある意。
不釣詩得==釣は、求める意。詩を作ろうとすることを釣詩という。得は、動詞の後に添えて事を成しえた気分を添える辞。