右の五ヶ条は
軍人たらんもの暫も忽にすへからす
さて之を行はんには一の誠心こそ大切なれ
抑此五ヶ条は我軍人の精神にして
一の誠心は又五ヶ条の精神なり
心誠ならされは如何なる嘉言も善行も
皆うはへの装飾にて何の用にかは立つへき
心たに誠あれは何事も成るものそかし
況してや此五ヶ条は天地の公道人倫の常経なり
行ひ易く守り易し
汝等軍人能く朕か訓に遵ひて此道を守り行ひ
国に報ゆるの務を尽さは
本国の蒼生挙りて之を悦ひなん
朕一人の懌のみならんや
明治十五年一月四日
御 名 御 璽 |
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一 軍人は武勇を尚ふへし
夫武勇は我国にては古よりいとも貴へる所なれは
我国の臣民たらんもの武勇なくては叶ふまし
>況して軍人は戦に臨み敵に当るの職なれは
片時も武勇を忘れてよかるへきか
さはあれ武勇には大勇あり小勇ありて同からす
血気にはやり粗暴の振舞なとせんは武勇とは謂ひ難し
軍人たらむものは常に能く義理を弁へ
能く胆力を練り思慮を殫して事を謀るへし
小敵たりとも侮らす大敵たりとも懼れす
己が武職を尽さむこそ誠の大勇にはあらされは
武勇を尚ふものは常々人に接るには温和を第一とし
諸人の愛敬を得むと心掛けよ
由なき勇を好みて猛威を振ひたらは
果は世人も忌嫌ひて犲狼の如く
思ひなむ心すへきことにこそ
一 軍人は信義を重んすへし
凡信義を守ること常の道にはあれと
わきて軍人は信義なくては
一日も隊伍の中に交りてあらんこと難かるへし
信とは己か言を践行ひ義とは己か分を尽すをいふなり
されは信義を尽さむと思はは
始より其事の成し得へきか
得へからさるかを審に思考すへし
信義を尽さむと思はは
始より其事の成し得へきか
得へからさるかを審に思考すへし
朧気なる事を仮初に諾ひてよしなき関係を結ひ
後に至りて信義を立てんとすれは進退谷りて
身の措き所に苦むことあり悔ゆとも其詮なし
始に能々事の順逆を弁へ理非を考へ
其言は所詮践むへからすと知り
其義はとても守るへからすと悟りなは 速に止るこそよけれ
古より或は小節の信義を立てんとて大綱の順逆を誤り
或は公道の理非に踏迷ひて私情の信義を守り
あたら英雄豪傑ともか禍に遭ひ身を滅し
屍の上の汚名を後世まで遺せること
其例尠からぬものを深く警めてやはあるへき
一 軍人は質素を旨とすへし
凡質素を旨とせされは文弱に流れ
軽薄に趨り驕奢華靡の風を好み遂には貪汚に陥りて
志も無下に賤くなり節操も武勇も其甲斐なく
世人に爪はしきせらるゝ迄に至りぬへし
其身生涯の不幸なりといふも中々愚なり
此風一たひ軍人の間に起りては彼の伝染病の如く蔓延し
士風も兵気も頓に衰へぬへきこと明なり
朕深く之を懼れて曩に免黜条例を施行し
略此事を誡め置きつれと
猶も其悪習の出んことを憂ひて心安からねは
故に又之を訓ふるそかし
汝等軍人ゆめ此訓戒を等間にな思ひそ |
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一 軍人は忠節を尽すを本分とすへし
凡生を我国に禀くるもの誰かは
国に報ゆるの心なかるへき
況して軍人たらん者は 此心の固からては
物の用に立ち得へしとも思はれす
軍人にして報国の心堅固ならさるは
如何程技芸に熟し学術に長するも
猶偶人にひとしかるへし
其隊伍も整ひ節制も正しくとも
忠節を存せさる軍隊は
事に臨みて烏合の衆に同かるへし
抑国家を保護し
国権を維持するは兵力に在れは
兵力の消長は是国運の盛衰なることを弁へ
世論に惑はす政治に拘らす
只々一途に己か本分の忠節を守り
義は山岳よりも重く
死は鴻毛よりも軽しと覚悟せよ
其操を破りて不覚を取り汚名を受くるなかれ
一 軍人は礼儀を正くすへし
凡軍人には上元帥より下一卒に至るまで
其間に官職の階級ありて統属するのみならす
同列同級とても停年に新旧あれは
新任の者は旧任のものに服従すへきものそ
下級のものは上官の命を承ること
実は直に朕か命を承る義なりと心得よ
己か隷属する所にあらすとも上級の者は勿論
停年の己より旧きものに対しては
総へて敬礼を尽すへし
又上級の者は下級のものに向ひ
聊も軽侮驕慢の振舞あるへからす
公務の為に威厳を主とする時は格別なれとも
其外は務めて懇に取扱ひ
慈愛を専一と心掛け上下一致して王事に勤労せよ
若軍人たるものにして礼儀を紊り
上を敬はす下を恵ますして
一致の和諧を失ひたらんには
啻に軍隊の蠧毒たるのみかは
国家の為にもゆるし難き罪人なるへし |
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