藤 田 東 湖 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)

(/rp>ひょう(/rp>ひょう(/rp>われ (/rp>なんじ(/rp>あい

(/rp>ゆう (/rp>ゆう たる(/rp> (/rp>うん (/rp>いく (/rp>へん (/rp>せん

(/rp> (/rp>せい(/rp> (/rp>らく (/rp>たれ(/rp>(/rp> がん

(/rp>たい (/rp>こう(/rp>ゆう (/rp> (/rp>なん(/rp>こつ (/rp>えん たる

(/rp>もち いず(/rp>ひと(/rp> めて(/rp>たく (/rp>はん(/rp>ぎん ずるを

(/rp>ただ(/rp>まさ(/rp>ちょう (/rp>すい して(/rp>たく (/rp>せん(/rp>とも なうべし

瓢箪よ、瓢箪よ。はお前が気に入っている。悠々として年月はめぐり、その間いくたびかの変遷を経てきたことだろう。
陋巷での顔回の無上の楽しみは、誰か今も受け継いでいるだろうか。豊臣秀吉の壮大なる志も、何とあっけなく潰えてしまったことか。
楚の屈原のように、世人みな酔いしれているなかで我ひとりが醒めているかの孤独感を抱いて、やがては追放されて洞庭湖のほとりに詩を吟じつつさすらい、ついに汨羅 (ベキラ) の淵に身を投じて死んでいく道はとるまい。ただひたすら瓢箪の酒を飲んで、謫 (タク) 仙人と呼ばれた酔漢李白の仲間でいよう。


亜聖至楽==亞聖は、聖人孔子に亜 (ツ) ぐ者の意で、顔回のこと。至楽は、至上の楽しみ。
雄図==壮大な計画。豊臣秀吉が天下を統一して朝鮮に攻め入り、さらには明国にまで攻め上る野望を抱いたことを指す。
忽焉==たちまちにして。焉は、悠然の然などと同じく副詞に添えて二音節とする辞。豊臣氏の天下は、秀吉の死後、たちまち徳川氏に移ってしまった。
不須==用いない。必要としない。
独醒吟沢畔==戦国時代、楚の屈原は憂国の至情にもかかわらず、ついには宮廷を追放されて泊羅の淵に身を投じて死んだ。その作品を収める 『楚辞』 の 「漁夫」 に 「衆人皆酔えるに、我独り醒めたり」 、 「屈原既に放たれて・・・・行くゆく沢畔に吟ず」 とあるのを用いる。
只合==只当と同じ。
長酔==いつまでも酔っていること。
謫仙==罪を犯して天上界から追放された仙人の意で、李白のこと。 『本事詩』 に、賀知章が蜀から都長安へ出てきた李白を訪ね、その詩文を見て謫仙と呼んだとある