藤 田 東 湖 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)


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遣 悶
白髪蒼顔万死餘

平生豪気未全除

宝刀難染洋夷血

却憶常陽旧草廬

髪は白く顔色も蒼黒くなって、すっかり年老いた身は、これまで何度も死ぬはずのところを死ねずに生きているだけのこと。ただ、かっての豪気がまったく失われているわけではない。
この刀を洋人の血に染めて攘夷を実行する志はあっても、もはやそれもかなわぬ夢となった。この先、退きこもるところ、水戸の古き粗末なわが家をばおもうばかりとなってしまった。

白髪蒼顔==蒼顔は、年老いての、あおぐろく衰えた顔色をいう。
万死餘==いくたびも死ぬはずであったが、死なずに過ぎてきた後の身の上。餘は、のち、すえ。
平生==往事、かつて。ここは平常、日頃の意味ではない。
洋夷==西洋人を罵っていう語。
却憶==却は、こと志と違って、意外であったり不本意であったりする気分をこめた辞。憶は、思い出す。
常陽==常陸の国の南のかた。水戸の地をさす。
旧草廬==昔暮らした故郷の古い家をいう。草廬は、草ぶきの粗末な家。