藤 田 東 湖 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)


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(/rp>きん (/rp>ぷう (/rp>さつ (/rp>さつ として(/rp>ぐん (/rp>いん(/rp>かも

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(/rp>いち (/rp>りん(/rp>めい (/rp>げつ (/rp>たん (/rp>しん(/rp> らす
夜 坐
金風颯颯醸群陰

玉露溥溥凋満林

独坐三更天地静

一輪明月照丹心
天保十五年 (1844) の作。三十九歳。江戸で蟄居中の詩。

風がサッサッと音を立てて吹きわたり、秋冷の気が満ちるようになった。しとりと露に湿う中、林の木々がみな葉を散らせてしまった。
ただ一人、天地の静まりかえった真夜中に坐っていると、一輪の明月だけが私の真心を照らし輝く。

金風==秋風。秋は万物を木火土金水に分つ五行説では、金に当たる。
颯颯==擬音語で、風の吹く形容。
醸群陰==醸は、酒をかもすことで、時間をかけてある状況がつくられてゆくことを意味する。群陰は、多くの陰気。万物を枯れしぼませてゆく秋の気。
玉露溥溥==
玉露は、露を美しくいう語で、金風とともに常見の秋の景物。溥溥は、しっとりと露を置くさま。
凋満林==林中の木々すべてが、しぼんでしまった。凋は、草木がしぼみ枯れること。秋になって林中の木々が凋んでしまったというのは藩主斉昭や東湖をめぐる情勢の変化につれて人々がみな節を変じてしまったことを暗に指す。
三更==真夜中。
月照丹心==明月は、あるいは暗に藩主斉昭を指すか。丹心は、まごころ。赤誠。