もとより愚かな性
(タチ) で、広く古今の知識に通じているわけではない。それにしても、このところ物思うたびに、なぜだか涙が流れてならぬ。
藩公の事を心配申し上げているのだが、目の前には郡奉行としての仕事を行わねばならず、こうして農村の役人となっていても、夷狄を迎え撃って殲滅してやろうという気持ちは今も胸にたぎっている。
一朝有事の際もあらんかと、時に甓 (カワラ) を運んで体を鍛える代わりに弓や槍の稽古に励んだ事もあるし、また時には詩句をひねって、わが志を琴の調べに寄せたこともある。
無情にも、月日ばかりが何とすみやかに過ぎてしまった事か。横になって聴くと、秋風に吹かれて一面の林がみな悲しげな音を立てている。 |