藤 田 東 湖 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)


(/rp>がん (/rp>たん (一)
(/rp>じょ (/rp>ふく (/rp>なん(/rp> えん(/rp>たちま(/rp>はる(/rp> うに

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元 旦 (一)
除服何堪忽値春

眼中風景易傷神

梅花不識幽人意

疎影故傍茅屋新
文政十二年 (1829) 正月の作。二十四歳。

亡き父の三年の喪が明けたばかりだというのに、すぐに新春を迎えるというのは辛いことだ。目に入ってくるめでたい正月の風景が、かえって心を悲しませる。
わが家の梅の花も、慎み深く暮している気持ちが分かっていないのか、粗末な屋敷にわざわざ枝をさしかけてきて、春のめでたい華やぎを添えている。

除服==近親者の死後、一定の期間は喪服を着けて謹慎の生活を送るのが中国古来の定めとなっており、その期間が終って喪服を脱ぐことをいう。日本でいう 「忌明け」 にほぼ相当する。ここは文政九年 (1826) 十二月一日に父の藤田幽谷が死去し、儒教での礼の定めの通り三年の喪に服した生活が昨年の暮れに終った事。
傷神==傷心に同じ。
幽人意==幽人は、ひっそりと隠れ住んで貞節を守っている人。隠者。ここはつい先頃まで亡父の喪中にいたことから、東湖がまだ慎ましやかな生活態度でいること。
疎影==まばらに影をさす梅の枝。
茅屋==かやぶきの粗末な家で、自家の謙称。