藤 田 東 湖 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)


(/rp>ぶん (/rp>てん (/rp>しょう(/rp>せい (/rp>(/rp>うた(/rp> す (一)
(/rp>てん (/rp> (/rp>せい (/rp>だい(/rp>
(/rp>すい (/rp>ぜん として(/rp>しん (/rp>しゅう(/rp>あつ まる
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(/rp> (/rp> として(/rp>せん (/rp>しゅう(/rp>そび
(/rp>そそ いでは(/rp>だい (/rp>えい(/rp>みず(/rp>
(/rp>よう (/rp>よう として(/rp>はつ (/rp>しゅう(/rp>めぐ
(/rp>はつ しては(/rp>ばん (/rp>(/rp>さくら(/rp>
(/rp>しゅう (/rp>ほう (/rp>とも(/rp>たぐ(/rp>がた
(/rp> りては(/rp>ひゃく (/rp>れん(/rp>てつ(/rp>
(/rp>えい (/rp> (/rp>かぶと(/rp>(/rp>
(/rp>じん (/rp>しん(/rp>みな (/rp>ゆう (/rp> にして
(/rp> (/rp>(/rp>ことごと(/rp>こう (/rp>きゅう なり
和文天祥正気歌 (一)
天地正大気
粋然鍾神州
秀為不二嶽
巍巍聳千秋
注為大瀛水
洋洋環八州
発為万朶桜
衆芳難与儔
凝為百錬鉄
鋭利可断兜
盡臣皆熊羆
武夫尽好仇

天地間の正大の気は、純粋なままに日本に集まっている。
高く秀でては富士山となって、いつの世にも威容を聳えさせている。 水となって注げば海原に流れ入り、はるばると大八州 (オオヤシマ) を環る。
花と開けば万朶の桜となり、その美しさは他のどの花も及びがたい。 鉄に凝集すれば百たびも打ち鍛えられた日本刀となって、その鋭さは兜をも断ち切ることができる。
こうした正気が人に集まって忠義の臣はみな熊や羆 (ヒグマ) のごとくに健 (タケ) く、武夫 (モノノフ) はことごとく主君の頼もしき腹心となる。

粋然==純粋なさま。
不二嶽==富士山。並びなき山という意味で富士の音を不二と写した。
巍巍==山の高く聳えるさま。 千秋==千年。永遠に。 大瀛==大海。
八州==日本  万朶桜==朶は、枝。無数の枝に咲く桜。
衆芳==芳は、花の意。桜以外の多くの花。 儔==仲間、同類となること。
百錬鉄==何度も打ち鍛えた鉄が作り上げる日本刀のこと。
盡臣==忠愛の心厚き家臣。
熊羆== 『書経』 康王之誥 (コウオウシコウ) に勇猛の臣士を 「熊羆の士」 という。
武夫尽好仇==武夫は、勇ましい男。好仇は主君にとって腹心の臣下となる好き仲間。