藤 田 東 湖 漢 詩 集

「江戸漢詩選 (四) 志 士」 ヨ リ

(発行所:岩波書店 発行者:安江 良介 注者:坂田 新)

和文天祥正気歌?序 (三)
天祥曰、浩然者、天地之正気也。
余広其説曰、
正気者、 道義之所積、忠孝之所発。
然彼所謂正気者、
秦漢唐宋、変易不一。
我所謂正気者、亘万世而不変者也、
極天地而不易者也。
因誦天祥歌、又和之以自歌。
歌曰、
(/rp>ぶん (/rp>てん (/rp>しょう(/rp>せい (/rp>(/rp>うた(/rp> す。(/rp>なら びに(/rp>じょ (三)
(/rp>てん (/rp>しょう (/rp> わく、(/rp>こう (/rp>ぜん たる(/rp>もの は、(/rp>てん (/rp>(/rp>せい (/rp> なり、と。
(/rp> (/rp>(/rp>せつ(/rp>ひろ めて(/rp> わく、
(/rp> なる(/rp>もの は、(/rp>どう (/rp>(/rp>(/rp>ところ(/rp>ちゅう (/rp>こう(/rp>はつ する(/rp>よころ なり、と。
(/rp>しか れども(/rp>所謂(/rp>いわゆる (/rp>せい (/rp> なる(/rp>もの は、(/rp>しん (/rp>かん (/rp>とう (/rp>そう(/rp>へん (/rp>えき (/rp>いつ ならず。
(/rp>われ所謂(/rp>いわゆる (/rp>せい (/rp> なる(/rp>もの は、(/rp>ばん (/rp>せい(/rp>わた りて(/rp>へん ぜざる(/rp>もの なり、
(/rp>てん (/rp>(/rp>きわ めて(/rp>かわ らざる(/rp>もの なり。
(/rp> りて(/rp>てん (/rp>しょう(/rp>うた(/rp>しょう し、(/rp>(/rp>これ(/rp> して(/rp>もつ(/rp>みずか(/rp>うた う。
(/rp>うた(/rp> わく、

文天祥は 「雄々しく満ちわたる浩然の気、それが天地の正気である」 と言っている。
私がそれを敷桁していえば、正気とは道義の積み重なったものであって、忠孝もそこから生じてくるものである。
ただし、文天祥のいう中国での正気は、秦・漢・唐・宋と、王朝が変るたびに現れかたが変化する。
私のいう日本での正気は、万世にわたって不変であって、天地の終末にいたるまでも変らぬものである。
かように考えつつ、文天祥の 「正気の歌」 を朗誦し、さらにこれに和して自らも歌を作った。
歌は次の通り。

正気者、道義之所積==正気は道義の実践が積み重ねられたところに生ずる。 『孟子』 公孫丑上に 「其の気たるや、義と道に配し、是「れ無くんば餒 (ウ) うるなり。是れ義に集 (ア) いて生ずる所の者にして、襲いてこれを取るに非ざるなり」 とあるによる。
秦漢唐宋、変易不一==易姓革命による王朝交代を重ねてきた中国では、たとえば秦朝への忠義は漢朝への不忠となって、正気の現れかたがそれぞれの立場によって異なってしまう。