九重の城闕に 煙塵生じ
千乘 萬騎 西南に行く
翠華 搖搖 行きて復た止まる
西のかた都門を出づること百餘里
六軍 発せづ 奈何ともする無し
宛転たる娥眉 馬前にて死す
花鈿 地に委ち 人の収むる無し
翠翹 金雀 玉掻頭
君王 面を俺いて救い得ず
迴看すれば血と涙と相和して流る
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宮城の物見台には煙と土埃とが立ちこめ、
あまたの武者に守られて玄宗の一行は
西南めざして落ちのびていった。
天子の御旗はゆらぎつつ、進んでは止まり止まってはまた進んだ。
都の城門から西へ百里ばかり、馬嵬坡にたどりついたとき、
近衛の六軍隊ははたと止まって動こうとせず、
これをどうすることもできなかった。
ここに、ゆるやかな弧をえがく眉をした美しい眸は、
みすみす軍馬の前で亡くなった。
花かんざしは地におちたまま、ひろいあげる人もいない。
かわせみの髪かざりも黄金の髪かざりの孔雀も、玉のこうがいも・・・。
天子は顔をたもとで 俺うばかりで、救けることもできなかった。
あとをふりかえりみれば、
血と涙とが共に目からほとばしりおちるのである。
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