春あさくしてまだ肌さむいときである。
皇帝は貴妃に華清宮内の温泉で湯あみの許可をくだされた。
温泉の湯はなめらかに、白さが凝結したような貴妃の肢体を洗った。
こしもとがささえおこしたけれども、ぐんなりと力なく、そのさまは何ともなまめかしかった。
貴妃がはじめて皇帝のおなさけを頂戴するのである。
たかくふんわりとゆった鬢の毛、あでやかにひらいた大輪の花かとまがう美しい顔、
頭上にはゆらめく金かんざし。
芙蓉をぬいとった帳はあたたかく、春の宵はたけてゆく。
春の宵はあやにくも短くて、床から離れるのは、もう日も高くさし昇ったとき。
このときから皇帝は早朝に政務をとることはなくなった。
★ ★ ★
貴妃は皇帝のよろこぶことに先から先へと細かく気をくだき、
皇帝の宴遊にはおそばにつききりで、少しのいとまもなかった。
春は春の遊びにお供し、夜は夜とて一人占め。
後宮にはあまたの麗人がいたけれども、それらの愛情はすべて一人に集まっていた。
黄金の館に化粧がすむと、なよなよとなまめかしく寝所にはべった。
玉の高楼に宴もはてるそのころは、ほんのり酔って春の宵にとけこむようであった。
★ ★ ★
姉も妹も、兄も弟もみな領地を賜り、何ともはや、戸口には後光がさしている。
世間の父親、母親は心のうちでは、息子より娘が生まれてくればよいと思うようになった。
|